相続空家の3,000万控除と家族信託

家族信託による名義変更等が行われても、実体に応じて課税されるので、税務上は家族信託がなかった時と同じように考えるのが一般的です。

ところが、『被相続人の居住用財産(空家)を売ったときの特例』について、昨年末に東京国税局より、上記とは異なる回答がなされましたので、ご紹介します。

『被相続人の居住用財産(空家)を売ったときの特例』とは

相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。

これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。

(国税庁 タックスアンサー №3306より)

事案の概要

母親の自宅について信託契約を締結した息子が、母親の死亡により権利帰属者としてその実家を承継しました。

その後、その翌年に息子は実家を売却しましたが、その譲渡益につき上記特例を受けることができるか、というものです。

東京国税局の回答の要旨

回答の要旨は以下の通りです。

信託契約による「受益権の取得」や、「終了した時の残余財産の帰属」などについては、相続税法において、贈与又は遺贈による取得とみなして相続税又は贈与税の課税対象とする措置が講じられています(相続税法第9条の2)。

一方、上記特例は、「相続又は遺贈」による被相続人の自宅の取得をした相続人が、一定の譲渡をした場合に、その譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることができる旨規定しているのみであり、

相続又は遺贈による取得とみなされる場合を対象に含む旨は規定していません


また、本件特例は、相続人が相続した家屋等の適正管理の責任を負うこととなることを踏まえた趣旨の下、適用対象者を「相続人」に限定した規定であると考えられるところ、信託終了による残余財産の取得は法律上の相続又は遺贈には当たらず、信託行為の当事者ではない帰属権利者は、その権利を放棄することができること(信託法183③)を踏まえると、帰属権利者による残余財産の取得を相続人による相続又は遺贈による財産の取得と同様に取り扱うことは相当ではないと考えられます。

以上のことから、当該残余財産の譲渡に係る譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることはできません

(抜粋して記載しております。)

考察

この東京国税局の回答は、租税特別措置法に規定された文言を厳格に解釈したといえます。

ただ、放置空き家が社会問題となっている昨今、『相続空き家の3000万円特別控除』もいずれは信託の帰属権利者に適用されるのではないかとも思えますが、現時点では上記回答を踏まえた上で備えるべきと思います。

家族信託契約に基づき老親が独居で暮らす実家を承継した人が換価処分する場合には、税制優遇措置が受けられない前提で対応するようにしましょう。

このように、法律や税務は一般の方々では把握しきれない部分もございます。相続の専門家に相談することをお薦めします。

千葉市美浜区 行政書士キズナ法務事務所《絆コンサルティング》